2025年6月23日

西荻のこと研究所 メールマガジン93号 (2025.3.27)

投稿者: nishiogiorg

西荻のこと研究所と西荻窪の皆様へ

こんにちは。

ご存知でない方もいらっしゃるかと思いますが、この度、無事に修士論文を提出し、大学院を卒業することができました。研究にご協力いただいた皆さまには、心より感謝申し上げます。

本研究では、「西荻のこと研究所」と「株式会社西荻のこと」がどのように発生し、まちづくり活動をどのように展開するのか、またその過程でまちがどのように変化するのかということを追究しました。こうして卒業という一区切りを迎えたいま、あらためて、研究における原初的な問いとその答えを、少しだけ言葉にしてお伝えできたらと思い、この文章を書いています。

私は大学時代に善福寺公園の周辺に住んでいたこともあり、西荻窪には度々散歩に出かけていました。当時は特に「物豆奇」が好き(今もそうですが)で、よく伺っていました。私のお気に入りはウィンナーコーヒーで、全身に染み渡る熱さと最後に残るザラメの甘さ、隣にいる人たちとのどこか親しみのある距離感、そしてふと訪れる静けさ。それらすべてが、私に深い安心感を与えてくれました。自然に、何の働きかけもなく得られたこの感覚が新鮮で、不思議に思いました。さらに謎を深めたのは、この感覚が「物豆奇」に限らず西荻窪の至るところで得られたということです。

私はきっと西荻窪というまちの表面に触れたに過ぎず、表面に現れた居心地の良さや、つながりのようなものの奥には、どんな関係性や機能があるのか――
大学院でテーマ決めを行う際に、ふと学部時代から抱いてきたこの問いが頭に浮かび、西荻窪をテーマに私は修士論文を書くことにしました。

論文では、アクターネットワーク理論(ANT)という枠組みを使い、「西荻のこと研究所」と「株式会社西荻のこと」のまちづくり活動に焦点化し記述しました。
この理論では、人だけでなく、モノや出来事、空間も含めて、あらゆるものが「アクター」として関係を結び、ネットワークを形成していくと考えます。

西荻窪というまちでそれを見ていくと、よく語られる「個人商店が多い」「緩やかなネットワーク」「新旧入り混じる街並み」といった「らしさ」が、実はそれぞれ独立して存在しているのではなく、ネットワークのなかで生成されているものだということに気づかされました。

たとえば、イベントや企画が行いやすいスペースや拠点(井荻会館などの貸しスペースやギャラリー、個人商店など。勿論、「西荻のことカフェ」も!)がまちの中に点在していて、そこが人の「関心」を深めたり、つなげたりするハブのような役割を果たしています。

お酒を飲む、ご飯を食べる、共に企画やイベントを行う――
そういった「もうひとつの目的」を通して、人の間に何かが介在していることもまた、西荻窪のネットワーク形成において重要であり、まさに「緩やかなネットワーク」を作る装置として機能しているように感じました。

そして、過去から受け継がれてきた活動や場が、そのまま継承されるのではなく、形を変えながら引き継がれていく。
「あさ市」が別の場所で別の名前(「ことビル」の「西荻のことカフェ」)で、でも同じ想いを抱いた人たちによって再解釈されたように、西荻窪の「らしさ」は保たれつつ絶えず更新され「新旧入り混じる街並み」へと繋がっています。

西荻窪で活動する人たちは、それぞれが何かに「関心」を持ち、それをまっすぐに行動に移していると同時に、他者の「関心」を奨励し、支えようとする文化を持っています。
私自身も、その温かいネットワークの中で受け入れられ、自分の「関心」を信じて掘り下げることができました。そして、そこで出会った人たちの声に支えられて、私はこの論文を完成させることができたのだと思います。

修士論文では、主に「まちづくり活動がどのように発生するのか」という「まちづくり活動における主体の生成」に焦点を当ててきましたが、
研究を終えて振り返ると、より重要なことは人とまちの相互作用であり、人の「関心」や行動がまちに作用し、同時にまちの環境や文化もまた人の行動や繋がりに作用する。そうした双方向のやりとりが基底にあるからこそ、まちの課題に対して、「西荻のこと研究所」や「株式会社西荻のこと」のようなまちづくり組織や活動が発生したのではないでしょうか。このまち自体のしなやかさ――つまり「レジリエンス」とも言うべきものが西荻窪のまちには存在するのではないかと考えています。

とくに西荻窪では、「補助132号線」の道路拡幅計画が進むなかで、
このまちを長い時間かけて形づくってきた風景や空気が、変わりつつある状況にあります。
そうした変化に対して、自然と人が集まり、声をあげ、動き出しています。
それは、このまちに根付いてきたつながりや記憶が、単なる過去のものではなく、今を生きる人たちの中で、必要に応じて立ち上がってくる力として働いているのだと思います。

こうした動きは、防災や都市計画といった制度的な文脈にも通じるだけでなく、人と人が地域のなかでどのように関係を結び、支え合いながら暮らしていくのか――その根底にある力を捉えるヒントにもなるはずです。

このように西荻窪への「関心」は絶えませんが、これからも深めていくつもりです。
研究を通じて、西荻窪というまちに深く関われたことを本当に幸せに思っています。また、調査を通じて西荻窪で生きる人々の話を聞き、その強さや優しさに触れられたことは、本当にかけがえのない経験でした。

あらためて、西荻窪で出会ったすべての人に、
心からの感謝をお伝えします。
本当にありがとうございました。

(平井康葉)


子どものための居場所づくり。
西荻ではじまります!

西荻に「どの世代も取り残さない居場所」をつくるプロジェクトをスタートさせるためのクラウドファンディングが始まっています。

西荻のこと研究所メンバーでもある能登山さんとその仲間たちが、ピエニ・オヴィという団体を作り、JR高架下にこどものためのサードプレイスを作るための取り組みをはじめました。

これまで能登山さんは、西荻でコミュニティスペース「西荻みなみ」や、子ども食堂という場をつくり、地域の人と人を繋ぐ活動をしてきました。そんな活動を通して、居場所が必要なのは子どもだけではないということに気づいたそうです。人とつながりの持てる場所が自分の暮らす地域のなかにあることで、大人だって日々のくらしが随分と豊かになっていくのです。

地域の課題は地域のみんなで解決するのがいい。そんな想いのつまったクラウドファンディング、ぜひ能登山さんと仲間たちの想いに触れてみてください。

クラウドファンディングの目標額は300万円。嬉しいことに今日現在で200万円を超えました。ピエニ・オヴィの理念を応援する人たちや地元企業にまで応援の輪が広がっている感じです。

もう一息で目標達成ですね!と能登山さんにお声かけすると、300万円は内装費の捻出もギリギリなんだけど目標額より少しプラスできたらトイレも作りたいなーと笑顔で答えてくれました。
ぜひ応援お願いしますー!

https://readyfor.jp/projects/nishiogi-kodomo

(松本弘子)


ブックレビュー①
『公文書に載らない東京都政と杉並区政』
(田中良 著/都政新報社)

この本は、48歳で歴代最年少の都議会議長を務め、その後3期12年間杉並区長を務めた田中良氏が2023年に出版した著作です。都議会の内情を知り尽くし、30年以上にわたり杉並区で政治活動を続けてきた田中氏だからこそ書ける内容で、抽象的な経験論や政策論に留まらず、東京都や杉並区の重要課題における意思決定の背景、関係者の具体的なやり取り、そして自身の考えや感情が詳細に記されています。

田中氏が長年携わった政策は多岐にわたります。オリンピック誘致、築地市場の豊洲移転、新型コロナ対策、保育園や特別養護老人ホーム(特養)の待機者解消といった注目度の高い課題から、東日本大震災時の南相馬市(杉並区の交流自治体)への支援、児童館の機能再編、荻外荘の保護、道路の拡幅、給食無償化など、住民や地域に密着した問題まで、多彩な事例が取り上げられています。

本書で特に注目すべき点は、田中氏が都議会議長の経験を活かしながら、杉並区長として東京都や国と予算や権限をめぐってどのように交渉を重ね、区民のための政策を実行してきたかが描かれていることです。たとえば、新型コロナウイルス対応では、杉並区の基幹病院でのコロナ患者受け入れに資金繰り支援を行うなど国に先んじた対応を取ったり、ワクチン接種で国や東京都との調整に尽力したりする様子が詳述されています。また、南伊豆での特養設置では政府や静岡県知事を巻き込んで法律の壁を乗り越える過程、豪雨発生時の東京都の対応への批判など、田中氏が杉並区民のために力を尽くしてきた姿が克明に描かれています。これらの描写には、数多くの人物が登場し、それぞれとの交渉の詳細が記されており、現場での政治のリアルを浮き彫りにしています。

さらに、前回の杉並区長選挙で争点となった課題に対する田中氏の考えが詳細に記されている点も重要です。一つの課題にはさまざまな視点があり、100%正しい答えが存在するわけではありません。田中氏の視点を通じて課題を捉えることで、私たち区民が何を選び、選挙において誰を選ぶのかを改めて考えさせられます。

本書は、杉並区の諸課題や東京都における政策の意思決定過程に関心のある方には特におすすめです。一つの課題に対する住民の考え方は多様で、絶対的な答えが存在しないからこそ、前回の選挙でわずか187票差で敗れた田中氏が杉並区政にどのように向き合ってきたのかを知ることは、私たちが今後自分たちの住む街の方向性を決める上で極めて重要だと感じます。

(杉浦岳志)


ブックレビュー②
『杉並は止まらない』
(岸本聡子 著/地平社)

本書では、2022年に杉並区長に就任した岸本聡子さんが、任期の折り返し時期に、区民との約束をどう果たしてきたか、現在進行形の区政のあゆみを語っています。
区長選挙の公約「さとこビジョン」に掲げた政策の柱は以下でした。

1子どもの視点で子どもの育ちを支えます
2誰もが暮らしやすい地域をめざします
3「対話」を大切にしたまちづくりを
4豊かな環境と平和を守り、文化を育てます
5区民のいのち・くらしを大切に
6透明性のある区政をつくります

多岐にわたる区政の課題を具体的にどのように政策とし、実現実行に取り組んできたのか振り返ると、学校給食無償化、性の多様性条例、杉並区パートナーシップ制度、公契約条例の報酬化減額アップ、会計年度職員の報酬・待遇改善などが挙げられます。

また、住民自治に重きを置く岸本区政では、施設再編や道路、教育や環境などなど、いくつものテーマで住民対話のワークショップが開催され、地域課題を「じぶんごと」として住民みずから考え取り組む仕組みが少しずつ構築されてきました。

特に、2024年度からはじまった西荻デザイン会議(仮)は、西荻窪エリアの背骨、都市計画道路補助132号線を中心に、まちの未来図を対話によってともに描いて行こうというもので、西荻のこと研究所メンバーは大きな期待と希望を持って参加しています。第3回を終えたばかりの今、手探りで、けしてスムーズとは言えない不器用なあゆみのこの会議に、ちゃんと関わって育てていきたい、その中で自分も成長していきたいという思いをあらたにします。これは私達がこころから願ってきて、岸本区長の働きに後押しされてできた、住民参画のまちづくりの場だからです。

岸本区長が、2年あまりの成果だけでなく、途上の取り組みにもどんな理念や思いの裏打ちがあり、何をめざすのかを語る本書を読むと、行政と住民が協働してアップデートしていった先、どんなひとも自分として認められ尊重されて、幸せを追求できる、そんな杉並の未来が浮かびます。

巻末の、2022年9月岸本区長の所信表明と、杉並区自治基本条例も、しっかり、ゆっくり読むことをおすすめします!住民である私達にもできることがたくさんあるんだ、いや、私達がじぶんの頭でしっかり考え、話し、決めて、実行していくのだな、と思えるから。

(奥秋亜矢)


参考:杉並区長選挙のインタビュー

2022年に実施された杉並区長選挙の際、西荻のこと研究所では、3名の候補者にインタビューを実施しました。今回著書を紹介した田中良さん、岸本聡子さんからもお話を聞いています。以下のページは、その時のインタビューのYoutube動画へのリンクと書き起こしへのリンクをアーカイブしたものです。
https://nishiogi.org/220619kuchointerviews/


いつでもできます
ニシオギ大調査

  「西荻のこと研究所」で実施している「ニシオギ大調査」は、当初はイベント開催でしたが、現在では恒常的にできるようになっています。コースはAコースとBコースの2種類。
スタート地点から歩きながら、チェックポイントにてスマホで入力フォームにアクセス。それを繰り返すだけの簡単調査です。
コースガイドは「西荻のことカフェ」はじめ、西荻のいろんなお店のチラシラックなどにありますので探してみてください。こちらからPDFのダウンロードも可能です。


NEW!! 読みやすい杉並区議会議事録
内容をアップデートしました

杉並区議会・委員会の議事録より、「都市計画道路補助132号線」に関するやり取りの部分だけを抜粋した、読みやすい縦書きPDFを以前から公開しておりましたが、このたびバージョンアップしました。

収録の期間がぐぐっと増えて、

平成30年9月〜令和4年5月

となります。

令和4年5月を区切りとしているのは、令和4年6月19日に杉並区長選挙があり、ここで区長が交代しているためです。区長交代後の議事録も現在作業中。
どんなやりとりが行われてきたのか、ぜひチェックを。

以下よりダウンロードしてください。

https://nishiogi.org/wp-content/uploads/2024/09/240922gijiroku132_01.pdf


大好評発売中!!!
「ニシオギ空想新聞Vol.2」

(全16ページ/フルカラー)
発行日 2023年3月15日
販売価格 330円(税込)

西荻の道路や開発のことを扱った「ニシオギ空想新聞2」。ぜひ多くの方に読んでいただいて、西荻の人自身で西荻のことを考える機運となればと願っています。

販売店(5/31現在・順不同)
西荻のことカフェ/信愛書店/古書音羽館/村田商會/カフェインザラフ/暮らしのいろいろ ていねいに、/三つ枝商店/インド料理ガネーシャガル/カフェカワセミピプレット/今野書店/Loupe/Dawner/やきとり戎/アトリエハコ/サロン+アトリエポルカ/Title/BREWBOOKS/ランチハウス/数寄和


目次:
◯抄録 ことビルオープニングトーク 「西荻のこと、まちのこと、これからのこと」     饗庭伸・中島直人
◯報告 ニシオギ大調査     コース紹介・参加方法・分析座談会
◯分析 さとことブレスト
◯インタビュー 都市計画道路担当課長・星野剛志さん
◯4つの疑問と6つの提案
◯インタビュー 西荻の人に聞きました2
やきとり戎/JR西荻窪駅/関東バス株式会社     信愛書店/あなたの公差転/杉並区長/中野書店     区議会議員(1)/区議会議員(2)
◯ニシオギ空想新聞図書室


お問い合わせメール
info@nishiogi.org

なお、3年前の2020年1月に西荻案内所から発売されたVol.1はこちらから無料でダウンロードできます。そちらも合わせてぜひチェックを。


西荻シネマ準備室の貸出について

西荻シネマ準備室は、西荻窪からなくなって久しい「映画館」の復活を目標に、その実現に向けての調査研究・準備をするために設けられたスペースです!……が、ふだんは多目的スペースとして以下のようなご利用が可能です。

展示会○販売会○新製品発表会○ワークショップ会場○トークイベント会場○ミーティング・会議○撮影スタジオ○習い事○読書会○学習会○お教室○記者会見○オンライン配信会場 などなど

1時間2,200円 または1日22,000円(9-21時)


※2025年4月から料金改定
 土日祝の料金が1時間2750円、1日27500円(いずれも税込)となります。

ご利用のお問い合わせ kabu@nishiogi.org

西荻のこと研究所
メルマガアンケート

メルマガ読者の皆様からの叱咤激励をいただきたく、アンケートを作ってみました。何度でも構いませんので、新しいご意見を思いつきましたら、ぜひ投稿してください
アンケートはこちらから

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西荻窪の未来を考える会議 議事録

2020年7月17日と11月20日、西荻北銀座商友会の樋代会長と、杉並区の道路と都市計画と商店街関係部署(都市整備部土木計画課・市街地整備課・産業振興センター)の担当者と、西荻のこと研究所メンバーで会合を持ちました。その際の議事録をHPにアップしました。
この「西荻窪の未来を考える会議」は、将来的には西荻窪エリアに住む住民にもっと開かれたまちづくり会合の場を実現するべく、その準備として行っています。

西荻窪の未来を考える会議第1回

西荻窪の未来を考える会議第2回


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参加希望の方、まずはメールをお送りください。
info@nishiogi.org


西荻のこと研究所 メールマガジン配信
次号 2025年4月10日(木) 予定


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